ここで滅多に仕事の話を書かないのは、基本的に守秘義務があるからです。業務内容によるのでしょうが、僕の場合は自社だけではなくクライアントのことでも外部に漏れたらマズイことが多いので、そうなるとほぼ仕事の話は書けなくなります。と言っても、まだネットを始めたばかりの30年前はある程度は具体的に書けました。撮影で会ったタレントの小ネタとか書いていましたが、その頃は世の中のほとんどの人がネットに触れていない時代でしたから、誰も見ていないところで書いている落書きのようなもので問題にもなりませんでした。今なら絶対に書けません。
会社に入って32年間はコピーライター、その後は経営企画部門に異動して11年。今の部署は特に機密保持に厳しいので、さらに書けない話ばかりになりました。そんな会社員生活も残り2ヵ月余り。業務も年内でほぼ後輩に引き継いで、あとは有休消化をしながら退職のための事務手続きを残すばかりとなります。会社を辞めればもう少し現役時代の昔話を書くこともできるかもと以前は思っていましたが、これだけネットで炎上するような時代になると、面白いネタも怖くてちょっと書くのをためらってしまいます。
43年も会社員を続けるなんて、新人の頃は全然想像がつかなかったのですが、いま振り返ってみれば長かったようにも、ほんの短い時間だったようにも思えます。「一炊の夢」(「邯鄲の夢」)という故事がありますが、本当に夢のように43年がギュッと詰まって感じます。新入社員だった4月に、オープンしたばかりの東京ディズニーランドに行きましたが、実は前日の夜に歌舞伎町のゲームセンターで遊んでいて財布をすられてしまいました。仕方なく同期から金を借りてディズニーランドに行き、ミッキーの財布を買いました。多分あの時に僕に金を貸してくれた同期も、一緒にスペースマウンテンに乗った同期も、そんなことは全く覚えていないでしょうが、僕には昨日のことのように思い出されます。
たまに仕事をしている夢を見ますが、夢では時間が完全におかしくなっています。夢の中のオフィスは30年くらいは前のイメージで、まだデスクにPCがないし、狭苦しいオフィスに社員がひしめいていて、やたらわちゃわちゃと熱気に溢れています。自分はどうやらコピーライターをやっているようなのですが、実際にコピーを書かずに打ち合わせで何か講釈を垂れています。若手のようでもありながら、今と同じ一番年長者のようでもあります。とっくに退職した先輩たちもたくさんいて、みな昔の若々しい姿で、そうすると僕は20代相当になりそうです。中にはもう他界した人もいるのに不思議とも思わないのですが、ふと「あれ、この人ってちょっと前に亡くなったんじゃなかったっけ」と急に思い出したりもします。
こんな訳のわからない夢を見るたびに、退職したら会社が懐かしくなったりするのかなとも思いますが、そんな懐かしい会社はもう夢の中にしかないというのも現実です。今は早く辞めてスッキリしたいという気持ちの方が強いですし。故事のように人生を悟るには、まだちょっと早いようです。
