パリ五輪女子柔道で東京から続く兄妹による連覇を狙った阿部詩がまさかの2回戦敗退を喫しました。僕も柔道経験者だからわかりますが、柔道というのはどんなに優位に立っていても思わぬ一本負けがあり得る競技です。まして舞台はオリンピックで相手は強敵です。一瞬の隙を突かれることは十分あります。仮に10回やれば9回勝てる相手だったとしても、やはり負けることもあるわけですから、まさに勝負は「時の運」としか言いようがありません。
ただ阿部の場合は試合後の態度に対して賛否の声が上がりました。呆然として立ち上がれず、審判に促されてようやく礼をしたものの畳の隅でまた座り込んでしまい、そのまま号泣。コーチに抱きかかえられて子どものように泣きじゃくる姿を世界中のメディアがすぐ近距離から報道していました。かなり衝撃的なシーンだっただけに、それだけ見ている人の心を揺さぶったのでしょう。それに対して感動する人もいれば不快に思う人もいるのも理解できます。今はSNSの時代なので、その心情がストレートに書き込まれて賛否両論が巻き起こりました。
柔道はスポーツでもありますが武道でもあります。スポーツとして見ているなら、阿部の号泣も素直な感情の発露であり、頑張ってきたからこそなんだろうと同情的に受け止められます。ただ武道としてとらえるなら、負けたからと言ってあそこまで取り乱すのはまだまだ未熟だと言われても仕方ありません。相手に対しても失礼です。勝っても負けても毅然とした態度でその結果を受け止めるべきというのは、武道家であれば当然です。
しかも阿部に勝利したウズベキスタンのケリディヨロワは、喜ぶ姿を見せることもなく静かに阿部が立ち上がるのを待っていました。あれは実に立派な姿勢でした。最近の日本柔道にああした態度が取れる選手がどれほどいることかと思わず反省させられるほどです。日本柔道は審判に対して誤審だ誤審だと抗議する前に、まず自分たちに隙がなかったか、勝ちにこだわり過ぎていないかを見つめ直して欲しいと、ケリディヨロワと阿部の姿を見て感じました。
日頃スポーツ化する世界の柔道に対して、柔道の精神を守れと主張しているのが日本柔道です。だったら勝っても負けても、素直に結果を受け入れて堂々とした態度を取るべきことを、もっとしっかり選手に教育していって欲しいと思います。柔道は相手に勝つものではなく、己に勝つものだと50年前には教えられました。もうそんな古臭いことを言う時代ではないというのなら、武道の看板は潔く捨てることです。それもまたスポーツ化する柔道で勝つためには必要なことでしょうから。

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